俺の不安は美味しいかい?

家の近くに新しい整体ができた。
道端でビラを配っていたお兄さんが、「今ならお試し施術が無料ですよ!すぐご案内できます!」というので、タダより怖いものはないと知りつつ、貧乏な私は付いていってしまった。


すぐに施術が始まった。
施術してくれたのは同い年くらいの爽やか好青年。


「首ヤバいですよ!首!」
「猫背すごいですね!このままいくと大変なことになりますよ!」
「腰つらそうですね!早めに治療しないと!」

開始早々、お兄さんはひたすら私の体をヤバいヤバいと言い始めた。


ふと耳を澄ませると、カーテンで仕切られた隣のベッドからも、「すごい肩こりですね~!これは大変だ!」という別の整体師さんの声が聞こえた。



いたく営業熱心だ、と思った。



昔からある手法だとは思うが、何でもかんでも人を不安に陥れて金を儲けようとする手法を、どうしても好きになれない。




ふと、昔のことを思い出した。
私は昔、携帯電話屋さんで働いていた。

うっすいマニュアルには「客の不安を増幅させ購買意欲を搔き立てろ」という旨の一文があったことを今でも覚えている。もちろんそんな明け透けには書かれていなかったけど。


「お写真を沢山撮るならSDカードも必要なんじゃないですか?お写真撮れなくなると困るでしょう?」みたいなやつだ。

そんでバカでかい容量のSDカードを売りつけるのだ。




ひたすらヤバいヤバいと連呼する整体のお兄さんの声を聞きながら、そんな過去のことを思い出していたら、お試し施術は終わった。


「ドブのさんは定期的に通われて、しっかり治療したほうがいいと思いますよ!次回ご予約取っていかれます?」

と帰り際に聞かれたが、丁重にお断りして目も合わせず逃げるように、外へ出た。



何だか、首周りがひどく痛んだ。