愛だけじゃ愛せないおちんぽもある
誰よりも一等好きだった男がいた。
正直、何で好きだったのかは分からない。
ここが大好きだ、と胸を張って言えるポイントのある男ではなかった。
ただ、何でか分からず彼を好きになった私は、彼じゃなきゃダメになった。
それまでの私は自分の好みを明確に理解して、自分のタイプの男を乗り換えまくってきた人生だった。
分かりやすく例えれば、顔がカッコイイ男が好きな私は、顔がカッコイイAくんと別れたって顔がカッコイイBくんと付き合えればそれで気が済んだ。そんな生ぬるくて薄っぺらい愛の中をちんたらちんたらと溺れない程度に泳いでるのが、私の恋愛だった。
ところが、である。
替えのきかない男を好きになってしまった。
好きなポイントが明確なら替えはいくらでもきくのに、どこが好きか分からないから替えを探しようがない。
私はとにかく彼に夢中になった。
彼が見ている世界を私も見てみたくて、彼と全く同じ身長・視力になりたいと願ったし、彼が美味しいと言うのならリアル生ごみだって美味しく頂けそう…そんな錯覚すら起こした。
どんなに一緒に居ても好きなところは分からなかった。分からなければ分からないほど彼にのめり込んだ。ただ、一緒に居て嫌いなところは分かった。
彼のおちんぽである。
セックスが、気持ちよく、ない。
おちんぽが、まるで、凶器。
そう、彼のおちんぽってばまるで凶器みたいで、とにかく挿入すると激痛なのだ。やれローションだ、前戯だと工夫を凝らしたって、痛みは全く消えない。
昔、うっかり酔った勢いで自分の腕を丸焼きにしようとしたことがあったのだが、そんなの比較にならないくらい全然痛い。
どんな痛みかっていえば、さながら彼のおちんぽはキングギドラなんじゃないかと疑うレベルの痛さ。私のおまんこに入ったおちんぽはキングギドラの頭のように三つに分かれて、頭から生えたトゲトゲや固いウロコで私の中を引っ掻き回す。だからこんなに痛いのだ、と。そんなことを真面目に考えるくらいの痛さ。
なぜモスラ(幼虫)でいてくれないの・・・!!!
彼のおちんぽが、怖かった。
しかし、私は存外セックスが好きである。とくに好きな人とするセックスは大好物。1日3回くらいしたい。大丈夫。まだ体があなたに馴染んでないだけ。抱きまくってくれたら私の穴だってさすがにあなたに順応する。大丈夫よ、思いっきり抱いて。
好きな女に抱いてと言われて、勃たない男は漢じゃない。私たちは何度もセックスに挑戦した。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・!!!!!!!!
痛いで脳内がゲシュタルト崩壊して、いっそ遺体になりそうだった。好きな人とのセックスがこんなに苦痛だなんて知らなかった。何なら初体験だってこんなに痛くはなかった。
私とのセックスで、彼は挿入中一度もイかなかった。
彼とのセックスで、私は一度も満足できなかった。
こんなに好きなのに。
人生の経験値が、3くらい、上がった気がした。
その後、彼との付き合いは半年くらいしか持たなかった。
当時キャバクラ嬢として熱心に働いていた私に彼が
「客と俺、どっちが大事なんだよ!」
とまあ、どこぞの女子のようなことを聞いてきたのだ。
「・・・どっちm「別れよう」」
「今は客。生活かかってっから」と言いたい気持ちをぐっと抑えた努力もむなしく、被せ気味にフラれて、私の大恋愛は幕を閉じた。
その数か月後、彼から「あの時は本当にごめん。ヨリを戻してくれないか」と言われた。
私は首を横に振った。拙い恋だった。
それでも私は、今でも彼を思い出す。
彼と別れて違う恋人を作ったこともあったけど、今でも彼が一等好きだ。鼻にかかった間抜けな声も、指が短くてクリームパンに激似の手も、ちょっと斜に構えた考え方も、目も鼻も口も髪も、てかもうおちんぽ以外なら何だって、きっと彼を目の前にしたら、私は今でも愛しくて堪らなくなってしまう自信がある。
しかし私は、彼のおちんぽも思い出す。
どうしてあんなに痛かったのか。セックス中いくらおちんぽを観察してもわからなかった。別に一見すれば彼のおちんぽは普通で、それこそドリルみたいに尖ってるとか、ぐりんぐりんにトルネードしてるなんてことはなかった。太さとか長さとかも別に。鈴木とか田中って苗字くらい、どこにでもありそうな平々凡々としたおちんぽだった。とりあえず確定してることは、もう二度と彼のおちんぽのお目にはかかりたくないということ。
そう、私の愛は、凶器おちんぽに負けたのだ。
私に恋愛の楽しさを教えてくれた彼。
愛だけではどうにもならないことがあると教えてくれた彼。
凶器おちんぽに、幸あらんことを。