週一回、ラブホにて。

働くことにした。

といっても、デリヘル嬢としてラブホ通いをしているのではない。

いちラブホスタッフとして、せっせと人が致した後始末をしている。

ぐしゃぐしゃのベッドにローションまみれの風呂、吐き散らかされたトイレえとせとら。

話によるとう〇こに出くわすこともあるそうだが、今のところまだブツとの遭遇はしていない。



ラブホで働こうと思った動機は特にない。

何となく「労働でもしようかなあ~」と思った時に、ふと求人を見つけた。

「週1日から勤務OK!」という誘い文句も、心にニートを飼っている私にちょうどいい。

そもそもヤリマン時代、ラブホには散々お世話になったのだ。

少しくらい恩返しをしたほうが、ラブホも喜ぶってもんだろう。

…とかなんとか、全くつじつまの合わない理由で応募ボタンをワンクリック。


その3日後には、私はラブホの事務所で面接を受けていた。

「平日に1日だけ働きたいです」というサービス業を舐め切ったシフトを希望したにもかかわらず面接から数日後には合格の電話を貰い、この世に「ラブホスタッフ・ごみ子」が誕生。

そんなこんなで、今は週に1日だけラブホでせっせと汗を流している。

猛烈に汚い部屋を掃除する時も「よほど楽しんだんだなあ」と思うと何だかめでたい気持ちになれるし、すげー忙しい時も「今この瞬間、多くの人が一心不乱に腰を振っているんだなあ」と思うと何だか楽しくなれるので、そこそこ適性はあると思う。



そしてついこの間のバイトでは、初日の新人さんに館内を案内をするという大役を任せられた。

待って待って待って。在籍から1ヵ月は経ったけど、まだ私トータルで5日しか出勤してないよ?

と思ったが、館内のほとんどがヤリ部屋な時点で詳細に紹介するほどの部屋もなかろうと判断し、承諾。


「エレベーターで降りる時は2階で降りて、1階へは階段を使うんですよ」

「ここがスタッフ用のお手洗いです」

淡々と進行する館内案内。

残念ながら、館内のマメ知識を披露できるほど館内事情に明るくない。私だって勤務5日目、ホヤホヤの新人なのだ。

新人さんは「やっぱり部屋の掃除って汚いですか」「自分にできるでしょうか」とずっとオドオドしている。

説得力を持つ回答ができるほど勤務を経験していない私は「だいたいはキレイな部屋ですよ」「きっとできますよ」と適当なことを言いつつ、心の中で「知らんけど」と思っていた。


そんなこんなでリネン室に到着。

「ここがリネン室です。一番乗りで部屋に行くときは、ここからシーツとかを持って行ってくだs…」



『あっはーーーーん!!!!』

時が止まった。


『あっあっあっ、ああああああん!!!』

声は止まらない。


ラブホスタッフ5日目の私は知っている。

すんげーでかい喘ぎ声は、廊下やリネン室にまでこだますることを。



これが全国のラブホあるあるなのか、うちのラブホだけあるあるなのかは知らないけれど、とにかくうちでは珍しくないことだ。

いやしかし、ここで説明をやめるわけにはいかない。5日目の私にだって、ラブホスタッフとしての矜持ってもんがある。


「こっちが安い部屋用のシーツで『あはーん』」

「ここに使用済みタオルとか入れて『うふーん』」


だァーーーまァーーーれェーーー!!!!

と、心の中の湯婆婆が叫んだ気がした。


いや、全然いいんだよ?お金払ってヤりにきてるんだし全然声出してくれて?

まあ同じ女としてはそんなでけえ声が出る=相手が百戦錬磨もしくはザコすぎて演技するしかない状況だと思ってるけどね?

ただ今だけは…!

ほんの3分でいい。サイレントな時間をくれ。ちょっと休憩がてらカップラーメンとか食ってくれ。


新人さんもケロッとしててくれればこちらも気にせずに済むのだが、いかんせんめちゃめちゃ気にして気まずい顔をするから私も困る。

「まーとりあえずね!ここ!ここに色々備品がありますから!ね!!!!」

と、やみくもに声を張ることでしか対応できない5日目の私。

「あ…ああ、はい、はい…」

オドオドぶりに拍車がかかる新人さん。

ひとしきり館内を歩いた私たちは、お互いギクシャクしながらスタッフルームに戻りその日はそのまま別れた。



そして昨日、6日目の出勤したらもう新人さんはいなくなっていた。あちゃー。